本研究に先立ち、初めに凹面振動子1枚を用いて寒天ファントム内の温度分布の測定を行った。その結果、工学的に設定した目的加温域が変位することから単一球面振動子による1重集束より複数球面振動子による2重集束の方が好ましいということが推察し得た。更に、実際に装置を試作する前に、超音波振動数500KHz及び、750KHzの2種について8枚の凹面振動子を用いた際の水中音場分布のコンピュ-タシュミュレ-ションを得た。超音波の組織侵達度は、周波数が低くなると良好となるが余り低くなると集束性が不良となることから、本研究で試作する装置の周波数は750KHzを利用することとした。又隣接する振動子に印加する電圧の位相を変えることによっても集束性が変化し、加温域の微小な調整が可能であるという知見を得た。 このシミュレ-ション結果を基にして装置の試作を行った。装置は、球面振動子(50mmφ)8枚を装備したトランスデユ-サヘッドから構成されている。試作した装置を用いて、最初にハイドロフォンによる水中音場分布の実測を行った。各々の位相を変化させた際のビ-ムプロフィルは、先のコンピュ-タシミュレ-ションの結果と良好な一致を認めた。次に試作装置による放射圧を利用した超音波強度の可視化を行った。エコ-ゲルと水の混合媒体内で超音波を放射すると、媒体液面に放射圧による水柱が生じ、8本の超音波束が良好な集束をなすのが観察された。更に、軟部組織等価寒天ファントムを用いて温度上昇のタイムコ-ス、並びに温度分布(サ-モグラム)の測定を試みた。結果は工学的焦点位置に於いて最も高温の加温域が生じ、焦点により4cm離れた所ではほとんど温度の上昇は認められなかった。この時の加温の半値域は約3cmであり、先記した位相の変換により半値域の値が変わる事が認められた。
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