進行肝細胞癌(肝癌)に対し、経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)が施行されることが多い。この治療法の有効性は広く認められているが、腫瘍細胞の全滅に至るのはごく限られた症例にすぎず、一部癌細胞はたとえ血流量の減少から低酸素状態が誘起されたとしても生き残る場合がある。このような低酸素状況下におかれた癌細胞はどのように変化するのかを調べる目的で、癌転移に関連する遊走能に着目し検討した。 方法はヒト肝癌細胞株PLC/PRF5を用い、細胞外基質Matrigel上の遊走能を判定した。Boyden chamberの下漕に3T3細胞のconditioned mediumを入れ、上漕にPLC/PRF5細胞を1×10^5個まき、その中Matrigelで被覆したフィルターを通過する細胞の個数を算定した。上記細胞を上漕に加えた後、12時間後に低酸素状態あるいは通常酸素状態下で3時間保温した。そして、制癌剤アドリアマイシン(ADM)4×10^<-3>μg/mlを加え、同様の酸素状態のままでさらに1時間保温した。細胞洗浄後、通常の酸素条件として48時間保温した。通常酸素条件下における通過細胞数を100%として低酸素条件下の通過細胞数を表した。 その結果、通常酸素条件下でADMを加えた場合(I群)では122.5±34.6%、低酸素条件のみの場合(II群)では170.4±20.8%、低酸素条件下でADMを加えた場合(III群)では189.0±20.3%であり、対照群に対し、II、III両群において有意差(P<0.01)を認めた。 以上より、低酸素状態におかれた細胞が死滅することなく生き残った場合、その遊走能は亢進し、加えて制癌剤の作用が働けば遊走能の亢進はさらに助長することが示された。したがって、肝癌に対しTAEを行う場合には可及的完全に癌細胞の死滅を図ることが肝要である。
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