研究概要 |
経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)は進行した原発性肝細胞癌(肝癌)に対し有効な治療手段である。TAEにより肝癌は低酸素状態に陥いるが、その際、癌細胞に如何なる影響が生じるのであろうか。この点を解明する目的でヒト肝癌細胞株を用い、(1)制癌剤の効果への影響、(2)転移能の変化、について検討した。 実験I:ヒト肝癌細胞株PLC/PRF/5,HuH-7の2種を用い、有酸素状態(95%空気、5%炭酸ガス)と低酸素状態(95%チッ素、5%炭酸ガス)の2条件下で培養し、各種制癌剤を加え、低酸素状態で有効な薬剤の選択を図った。その結果、PLC/PRF/5株では低酸素状態で有意に抗腫瘍効果増強がみられたのはマイトマイシンC(MMC)、カルボコン(CQ)であった。アドリアマイシン(ADM)、シスプラチン(CDDP)では有酸素状態での効果と差がなかった。一方、HuH-7株ではMMCのみが低酸素状態で抗腫瘍効果が有意に増強したが、ADM、CDDP、CQでは効果増強はなかった。 実験II:PLC/PRF/5株を用い、有酸素状態(I群)、ADMのみ(II群)、低酸素状態(III群)、低酸素状態とADM(IV群)に分け培養し、その後全群有酸素状態に戻して培養した後、Byden c-hamberにMatrigelで被覆したフィルターを置き、各群でフィルターを通過する癌細胞数を算出して遊走能を調べた。その結果、I群に比べ、III、IV群で有意に癌細胞の遊走能の亢進を認めた。 以上の結果から、肝癌細胞が低酸素状態におかれた場合、通常の条件下と異なった性質を示すことがわかった。すなわち、TAEと化学療法を併用する場合、その条件にあった薬剤の選択は重要である。また、TAEを行う場合、癌細胞が死滅せず生き残ると、却って転移能を増す可能性があり、可及的完全壊死を図ることが肝要と思われた。
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