P糖蛋白は癌化学療法の後に発現し得る分子量約17万の膜糖蛋白で、癌細胞においてATP依存性にビンクリスチンやアドリアマイシン等の抗癌剤を細胞外へ排出し多剤耐性に関与する。近年、P糖蛋白は副腎や腎、肝などの正常組織のみならず、脳や睾丸の毛細血管にも特異的にみられることから、関門機能との関連が示唆されているがその詳細については不明な点が多い。そこで、本研究においては牛脳より精製した毛細血管内皮細胞を対象として、P糖蛋白の発現と薬剤の取り込みを検討した。牛脳および精製した毛細血管内皮細胞の初代単層培養系を用いて、ABC法によりウエスタンブロッティングを行い、同時に光顕と電顕を用いた免疫組織化学によりP糖蛋白の発現を検索した。P糖蛋白に特異的に反応するモノクロ-ナル抗体としてC219およびMRK16を用いた。さらに、P糖蛋白の作用を阻害する種々の薬剤を用いて、培養脳毛細管内皮細胞へのビンクリスチンの取り込みを薬物動態学的に検討した。ウエスタンブロッティングでは、牛脳より精製した毛細血管内皮細胞において、分子量約13万のP糖蛋白が検出された。免疫組織化学的には、牛脳毛細血管内皮細胞では内腔側の細胞膜に局在してP糖蛋白の発現が認められた。初代培養脳毛細血管内皮細胞においては、MRK16では胞体全体にび慢性に、C219では顆粒状にP糖蛋白の発現が認められた。免疫電顕的には、内腔側の細胞膜に局在してP糖蛋白の発現が認められた。初代単層培養系を用いた薬物動態実験では、MRK16やカルシウム拮抗剤、ステロイドホルモン等を加えると、脳毛細血管内皮細胞内の薬剤取り込みは有意に増加した。 以上より、P糖蛋白は脳毛細血管内皮細胞において薬剤を細胞内から血管内腔側へ能動的に汲み出す作用により、血液脳関門の機能の一端を担っていることが示唆された。
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