研究概要 |
下位脳幹の刺激状態で脳浮腫が急速に増悪し、この際脳脊髄液中の中枢性バゾプレッシンが有意に増加することから、バゾプレッシンレセプターアンタゴニストが脳浮腫治療の一方法になるという作業仮説で研究を行ってきた。基礎研究の結果、バゾプレッシンV_1、V_2レセプターのアンタゴニストの中で、V_1レセプターアンタゴニストが抗脳浮腫効果が強いことが判明した。今年度はアンタゴニスト投与による抗脳浮腫効果が、脳浮腫病巣のどの部位に主に作用するのか検討した。脳損傷実験モデルとされている凍結脳損傷を実験的に作成し、損傷近傍部の損傷脳と脳深部に分け、脳水分、Na^+、K^+の変化を検討した結果、V_1レセプター50ngの脳室内投与によって脳損傷近傍の大脳皮質において、有意に脳水分量、Na増加の抑制、K^+減少の抑制がみられ、脳深部の脳浮腫遠隔部は影響をうけないことがわかった。すなわち、バゾプレッシンV^1レセプターアンタゴニストの中枢内投与は、脳浮腫病巣に直接作用し、血管源性浮腫を抑制することが明らかとなった。なお、V_2レセプターアンタゴニストの抗脳浮腫効果は、50ng投与で皮質でわずかにその傾向がみられるだけで、おおむね無効であった。又、アンタゴニスト投与には効果発現に至適濃度があり、5.500ngの投与では余り効果がなく、50ngで最も有効であった。この成果は American Association of Neurological Surgeons(1992年4月.San Francisco),International Conference on Recent Advance of Neurotrauma(1992年9月、軽井沢)、第51回日本脳神経外科学会総合で発表した。
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