研究概要 |
脳幹の機能異常を延髄網様体の電気刺激で作成すると、凍結損傷部の脳浮腫組織内の水分量が短時間で1.5〜3.0%増加し、同時に髄液中のアルギニンバゾプレッシン(以下AVP)が2.0〜2.5倍増加する。最近の知見から中枢性AVPが正常および病的脳の血管透過性を亢進せしめることが明らかになっている。延髄網様体の機能異常で視床下部より中枢性AVPが分泌され、その結果浮腫脳組織の脳水分量が増加したと推定したそこでAVPレセプターアンタゴニストを直接脳内に投与して抗脳浮腫効果を検討した。その結果、V_1およびV_2レセプターアンタゴニストのうちV_1アンタゴニストの方が抗脳浮腫効果が強く、脳血管の水分透過性に関与しているのは、V_1レセプターであることが明らかとなった。V_1アンタゴニスト5,50,500ngの脳室内投与では、50ngにのみ有意差をもって脳浮腫を抑制する作用があることから、AVP拮抗剤のようなペプチドを治療に用いる場合には、至適濃度があることが分かった。AVP拮抗剤(特にV_1)は、脳損傷作成前投与のみならず、損傷作成1時間後に脳室内に投与しても抗脳浮腫効果があることが証明され、脳浮腫治療の一つの新しい方向と思われる。 AVP拮抗剤の作用部位を検討するために、損傷近傍と遠隔部に分け、水分量、脳Na^+、K^+の変化をみたところ、損傷近傍部の浮腫の強い部分で、より水分量増加、Na^+上昇、K^+低下が抑制されていたことから、AVP拮抗剤は、直接血液脳関門の破綻した損傷部位に働いて、脳血管透過性を軽減せしめることが推定された。これらの結果から、AVP拮抗剤の脳への直接投与は将来脳浮腫治療の新方法になる可能性がある。
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