我々は、脳腫瘍における特異的局所脳血流調節機構や血液脳関門の機能を解明し、これらを人為的に調節することが可能となれば、従来の化学療法のみならず近年試みられている単クローン抗体や遺伝子治療にも応用することができ、より安全で選択的かつ強力な治療が可能と考えている。我々は、血管作動性薬剤の脳血管に対する作用に着目し、ラット脳腫瘍モデルで水素クリアランス法を用い、アデノシン、アデノシン3リン酸(ATP)、ヒスタミン、およびプロスタグランジンI_2をラット頸動脈内に注入すると、脳腫瘍部の局所血液量を選択的に増加させることを平成5年度までに確認し、さらに、ロイコトリエンC_4やブラッデイキニンなどにより、選択的な脳腫瘍血管の透過性亢進を惹起しうることを報告した。現在、カルシウムチャンネルブロッカーでも同様に30%から100%の局所血流増加を得ている。 この研究は様々な血管作動性物質の併用により、果たして治療薬の腫瘍内濃度を選択的に上げることが可能か、その結果として抗腫瘍効果が得られるのかをin vivoで検討するものである。まず、腫瘍部における血管透過性や血管反応性は、正常脳部におけるものとは異なっていると考えられるため、腫瘍部での血管透過性を明らかにし、次に選択的に脳腫瘍の血管透過性を亢進させ、かつまた局所血液量を増加させる物質と化学療法剤を併用することにより脳腫瘍治療の成績向上が期待できるかを検討するものである。
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