痙性斜頸に対して定位的視床腹外側核凝固術が行われているが、頸筋に対する中枢からの神経支配機構が明かでないため、手術を異常収縮筋に対して同側か反対側に行うかは研究者によって議論がある。ネコにおける脚内核はヒトの淡蒼球内筋に該当すると考えられ、頭部の水平運動と強く関わっている。本研究は、ネコの脚内核刺激により、頭部の水平運動に関わる胸鎖乳突筋と僧帽筋運動ニュ-ロンの反応様式を観察し、ヒトに置ける頸筋の支配機構を推定しようと試みたものである。平成3年度の研究によって次のような成果が得られた。 1)一側脚内核を反復刺激すると、同側胸鎖乳突筋の運動ニュ-ロンの活動が斬増性に増加した。 2)反応の潜時は3ー225msec(平均79)と広範囲に分布していた。 3)同様の刺激で反対側胸鎖乳突筋の運動ニュ-ロンが抑制された。 4)上記の脚内核刺激は4ー7個の矩形波群(300Hz)を1Hzで反復刺激したとき有効で、単発の矩形波刺激では反応がみられなかった。 5)両側大脳皮質運動感覚野を切除した後でも同様の反応が得られた。 6)一側脚内核の反復刺激では、同側僧帽筋の運動ニュ-ロンに反応が得られず、反対側運動ニュ-ロンが斬増性に増加した。 以上の結果から、脚内核は同側の胸鎖乳突筋と反対側の僧帽筋の活動を高め、頭部を刺激の反対側に回旋させるよう働いており、その中枢経路に脳幹内の反響回路が関与していることが強く示唆された。動物実験の結果から、水平回旋性の痙性斜頸には同側手術が妥当で有ることが示唆されつつある。
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