痙性斜頚の多くは大脳基底核におけるレンズ核の機能異常にもとづく不随意運動と考えられている。本症の外科治療は、一般に視床腹外側核手術が行われているがその手術側は研究者によって異なっており、手術の評価も議論が多い。本研究は、ネコを用いて大脳基底核の出力構造である脚内核(霊長類の淡蒼球内節に相当する)を電気刺激し、逆行性刺激により頚筋の運動ニューロンを同定して、その反応様式と大脳内の伝達回路を明らかにしようと試みるものである。本研究で得た知見は以下のとおりである。 1)胸鎖乳突筋ニューロンの多くは、同側脚内核の刺激で斬増性に興奮し、反対側脚内核の刺激ではその多くは抑制反応がみられた。2)僧帽筋の運動ニューロンの多くは、反対側脚内核刺激で斬増性に興奮し、同側刺激では反応が得られなかった。3)大脳皮質運動感覚野を両側に切除しても同様の刺激効果がみられた。4)なお、板状筋についても同様な検索を試みたが、脊髄運動ニューロンの同定が困難で予定の年度内には結論を出せなかった。 以上のことから、大脳基底核から支配側は頚筋の種類によって異なり、痙性斜頚に対する手術側はこれを考慮する必要がある。また、大脳皮質運動野や前運動野の破壊によって影響をうけにくいことから、各筋に対する支配経路は視床-皮質路の関与は少なく、脚内核のもう一つの出力系である脚内核-脳幹網様体路を経由することが示唆された。従って、例えば胸鎖乳突筋の収縮が主体をなす水平性斜頚に対しては、従来のような視床手術ではなく、同側性の淡蒼球手術を行うのがより効果を行うのがより効果的であると推定される。 以上の基礎的知見を踏まえて、水平性痙性患者2例に対して淡蒼球の同側性凝固術を行ったところ、症状は著明に改善され極めて良好な結果を得た。手術部位は、パーキンソン病の無動性に対する手術を通して明らかになってきたことであるが、淡蒼球-網様体路と関わりの深い淡蒼球内節後腹側部である。また、本手術中に微小電極法により大脳基底核におけるニューロン活動を記録し、淡蒼球から随意運動や不随意運動に一致した単一ニューロン活動を記録した。本研究の結果は、痙性斜頚に対して視床斜頚に対して視床手術がしばしば有効でなかったこと、手術側さえも曖昧であったことなど従来の臨床上の疑問対する解答が含まれており、今後、後腹側淡蒼球手術が臨床応用できる生理学的根拠を提供したと思われる。
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