研究概要 |
(1)ラットの中大脳動脈あるいは全脳虚血モデルにおいて、線条体部の細胞外ドーパミンおよびグルタメート濃度が、虚血により上昇することが明かとなった。ドーパミン(D1)レセプター拮抗剤の投与や黒質の破壊によるドーパミン放出の抑制は虚血による線条体の細胞障害を減少させ、ドーパミンによる細胞障害の可能性が示唆された。全脳虚血ラットにフォスフォリパーゼC阻害薬を投与し、虚血時のアラキドン酸の産生を抑制すると、虚血早期で線条体部の細胞外グルタメートの上昇が抑制され、虚血時のアラキドン酸の上昇がさらなる細胞外グルタメートの上昇を引き起こしている可能性が示唆された。 (2)ラットの片側性中大脳動脈閉塞モデルに胎仔線条体細胞を移植すると虚血により低下した受動回避試験、水迷路試験での学習能の改善が認められた。移植1ヶ月後にDiI(1,1′-dioctadecyl-3,3,3′,3′-tetramethylindo-carbocyanine perchlorate)でラベルした移植片を蛍光顕微鏡で観察すると、細胞の生着、軸索の伸展が認められ、免疫組織学検査でGABAあるいはアセチルコリンの存在が確認された。線条体からの投射部位である淡蒼球で細胞外GABA濃度を測定すると、虚血1ヶ月後のラットでは減少していたが、移植を受けたラットではほぼ正常レベルまで回復しており移植片からの神経伝達物質の補充が示唆された。オートラジオグラフィにより移植部位内でドーパミン性、アセチルコリン性、GABA性のレセプターの発現が認められた。これらのことから虚血による神経回路網の脱落が脳内神経移植により修復され、運動学習能が改善する可能性があることがわかった。しかしながら、移植片と宿主間との形態学的な連絡や電気生理学的な連絡は今回確認できず、また移植片からの成長・栄養因子等の分泌およびそれによる宿主残存組織の活性化の可能性なども検索できなかった。今後はこれらの問題点等を検討していく必要があろう。
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