研究概要 |
ラットの視床腹外側ならびに腹内側核に凝固巣を作成し,3日から56日後にcytochrome oxydase histochemistry(CYO)により主に大脳皮質知覚領野の活動状況を観察した。正常の知覚領野ではいわゆるbarrel fieldの第4層ならびに第6層に高い活動がみられるため,CYOではbilayer patternを呈する。これは視床腹外側ならびに腹内側核からの投射線維を受ける樹状突起の代謝活動を反映するものと考えられる。視床腹外側ならびに腹内側核に凝固巣を作成したラットでは,このbilayer patternが消失しており,3日から14日にかけて全体に活動が低下している様子が捉えられた。ところが28日を過ぎるとbilayer patternを失ったまま全体に活動が亢進してくることが判明した。またbarrelも認められない。この変化は,視床腹外側ないし腹内側核の凝固巣の大きさに対応して,その投射領域の知覚領野に観察された。脊髄視床路を脊髄レベルで破壊したラットでもほぼ同様の変化がみられた。そこで,現在知覚領野での単一細胞活動を電気生理学的に検討している。今のところCYOでみられた変化と対応して,28日ころから自発放電数の増大がほぼ全体に観察されている。以上の結果は,視床腹外側ならびに腹内側核からの投射を除去すると,しばらくして知覚領野全体に過剰活動が発生することを示している。barrelは知覚入力の形態的単位であるが,機能的には過剰な入力を抑制することによって空間的知覚弁別を鋭敏にするための周辺抑制を行う機能的単位に対応するものと考えられている。したがって,周辺抑制の消失と知覚領野全体にみられる過剰活動とには何らかの関係があるものと推定される。これらが,視床梗塞や視床出血の後に知覚領野に発生する機能的変化と相同のものであるとすれば,中枢性疼痛の発生の基本的背景を示唆するものであると考えられる。
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