研究概要 |
骨折の治癒過程には不明な点が多い.そのため骨折の治癒が遅延し,歩行不能となり,老人骨折によるねたきり老人の増加,交通災害による身障者の増加など社会的問題の原因ともなっている.骨折癒合不全の原因が骨形成能の欠如にあることを見いだしたが,さらに骨折部の血腫が骨折治癒過程を支配し重要な骨形成因子を含有していることが判明した. そのためには血腫を有効に利用することが骨折の早期治癒に結び付くと考えられる.今回の研究において,血腫を培養したうえ,骨形成因子を精製し,骨折の治癒過程を促進することを達成する目的で研究を施行した. 研究成果としては,血腫の細胞成分と非細胞成分の分離に成功した.また,細胞成分はこれを培養することにも成功し,さらに継代培養をすることも可能となった.継代培養すると,細胞成分はほとんどが幼若な線維芽細胞であり,しかも旺盛な生命力を有していることがわかった.これを培養器から取り出し,動物へ再び移植すると,骨の形成を再び開始することをも究明できた.しかし,完全な骨までには成熟していない.今回では,骨誘導物質としてすでに実用化されているハイドロオキシアパタイトを混合すると,骨形成はさらに活発となり,成熟に近い骨形成であることが分かった. 血腫の凍結乾燥粉末の実験では,血腫の非細胞成分である凍結乾燥成分を動物に移植すると,その周囲に旺盛な新生骨が観察された.同時に,ハイドロオキシアパタイトを混合すると,さらに骨形成が促進されることも判明した. これらの成果を踏まえて,現時点では血腫のクローン化を試み,そのうえ血腫に含まれている骨形成因子の性状をさらに明確化し,骨形成因子の精製を完成したい.
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