研究概要 |
脳障害の病態について、とくに虚血後早期の神経伝達物質異常と記憶障害との関連について検討し、今までに以下の成果を得た。 ラットを用い頚動脈結紮と脱血性低血圧による脳虚血を10分間行い、結紮解除と復血により再潅流した。虚血2ー3日後、自発運動量が亢進し記憶保持能が障害された。7日後、海馬CA1および線条体の ^<45>蓄績がみられ、神経細胞脱落が著明であった。 脳虚血により線条体細胞外液DA濃度(微小透析法)は約20倍に増加し、再潅流後30分で虚血前値に戻った。DA増加はωーCgTX(NおよびL型Ca拮抗楽)で抑制された。虚血後再潅流1時間では、 ^3HーGTP受容体結合は変化なく、 ^3Hーforskolin(adenylate cyclase:AC活性)結合が海馬CA1,CA3,DGで減少し, ^3HーPDBu結合(protein kinase C:PKC活性)が海馬CA1,DGで増加傾向を、また ^3HーPNー200ー110結合(L型Ca channel)が線条体、海馬CA1,DGで減少傾向を示した。7日後では、 ^3HーQNB(mACh)、 ^3Hーglutamate(主にNMDA)結合が、線条体および海馬CA1で減少し、 ^3HーGTP結合は海馬CA1で著しい減少を示した。 また、学習獲得ラットで、虚血後に条件回避反応が著しく障害されたが、空間認知(水迷路法:行動解析装置購入)では軽度の障害であった。 以上から、一過性脳虚血後、線条体でDAのシナプス前細胞へのCa過剰流入によると思われる過剰放出が起きることが明らかとなった。さらに脆弱細胞の海馬では再潅流早期に細胞内情報伝達系の異常(ACの活性抑制とPKC活性亢進)が起き、7日後に神経細胞は脱落し、抑制性伝達物質受容体のmAChおよびNMDA受容体とそれと共役しているG蛋白が減少し、能動的回避反応障害を伴うことが明らかとなった。今後、代謝性脳症の病態とも合せ、選択的部位における細胞内セカンド、サ-ドメッセンジャ-系の変化を検討すると共に、治療薬の効果について検討する。
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