低酸素および代謝性脳症の病態解明と治療法に関する研究

1992 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 03454376
• 研究機関: 山口大学
• 研究代表者: 坂部 武史 山口大学, 医学部, 教授 (40035225)
• 研究分担者: 中木村 和彦 山口大学, 医学部, 助手 (50180261) ; 定光 大海 山口大学, 医学部・附属病院, 講師 (10187164) ; 前川 剛志 山口大学, 医学部・附属病院, 教授 (60034972) ; 石川 敏三 山口大学, 医学部, 助手 (90034991)
• キーワード: 低酸素性脳症 / 代謝性脳症 / 遅発性神経細胞壊死 / 興奮性神経伝達物質 / マイクロダイアリス / 細胞内情報伝達系 / 薬物療法

研究概要

今年度は、虚血・低酸素および敗血症後の脳障害の病態と治療について、ラットを用い神経伝達物質異常と中枢神経系障害との関連を中心に検討した。1.脳虚血(頚動脈結紮と脱血性低血圧)モデルで、staurosporine(protein kinase C阻害剤)は虚血時の線条体DA放出(微小透析法)を低体温療法(-3℃)と同様に抑制したが、7日後の空間認知(水迷路法)障害及び海馬、大脳皮質の細胞傷害には影響しなかった。細胞膜蛋白合成促進作用をもつs-adenosyl methionineは、条件回避反応の学習障害を軽減した。2.CO中毒(0.1〜0.3%)で、7日後より局所脳ブドウ糖代謝が尾状核、淡蒼球、海馬、大脳皮質、黒質で遅発性に15〜25%低下し、一部では局所脳血流低下を伴っていた。また、14日後には空間認知障害、活動性の低下が起き、細胞内情報伝達系では^3H-GTP(海馬、大脳皮質)、^3H-forskolin(淡蒼球、尾状核)、^3H-PDBu(黒質、線条体)結合が10〜40%低下することが分かった。3.低酸素(Po_231-35mmHg)吸入後1時間でみられる脳内MHPG、DOPAC/DAの低下とDA合成亢進が、pentobarbitalで軽減された。4.敗血症モデル(盲腸結紮と穿孔)で、運動量と情動性の著しい低下が起きる時期に、局所脳ブドウ糖代謝が海馬、青斑核、大脳皮質で10〜30%低下し、縫線核、中隔核では30%亢進した。また、^<125>I-BHSP結合が尾状核、淡蒼球、海馬、扁桃体、中隔核、縫線核40〜70%低下したことから、敗血症性脳症には5-HTやNA神経系の異常のみならず、これらの局所部位や神経系における神経ペプチドSPが関与する可能性がある。以上から、低酸素性あるいは代謝性脳症の発現には選択的脆弱部位の神経伝達物質の異常(シナプス及び細胞内情報伝達系)が密接に関与し、精神・神経障害を引き起こす可能性が分かった。治療には軽度低体温の他、再潅流・再酸素化早期に神経伝達物質の異常を抑制する作用をもつものが障害の軽減に有用である。

研究成果

• [文献書誌] 石川 敏三 他: "CO中毒後の遅発性局所脳ブドウ糖代謝率および血流量変化" Brain Hypoxia. 5. 11-18 (1991)
• [文献書誌] 石川 敏三 他: "一過性脳虚血後の記憶障害、神経伝達物質異常に及ぼすBifemelane Hydrochlorideの効果" 薬理と治療. 19. 1391-1400 (1991)
• [文献書誌] 石川 敏三 他: "一過性脳虚血後の行動・記憶障害、細胞外液DA濃度および^<45>Ca蓄積に対するpentobarbitalの効果" Brain Hypoxia. 6. 31-38 (1992)
• [文献書誌] 石川 敏三 他: "Benzothiazepine系Ca拮抗薬(TA-3090)の実験的脳虚血に及ぼす影響ー局所脳血流量およびブドウ糖代謝による評価ー" 薬理と治療. 20. 2407-2414 (1992)
• [文献書誌] 石川 敏三 他: "一過性脳虚血後の局所脳血流量およびブドウ糖代謝に及ぼすProstaglandin E_1の影響" 薬理と治療. 21. 27-36 (1993)
• [文献書誌] Sakabe T,et al.: "Neurobehavioral performance of rats following forebrain ischemia." J Cereb Blood Flow Metab.
• [文献書誌] Sakabe T,et al.: "Postischemic pentobarbital reduces memory disturbances following transient forebrain ischemia in rats." Stroke.
• [文献書誌] Sakabe T,et al.: "The role of intracellular signal transducing systems in ischemic brain damage" Brain Research.
• [文献書誌] Ishikawa T,et al.: "Involvement of protein kinase C activity in selective vulnerable regions after brain ischemia:monitored by microdialysis and autoradiographic analysis." Stroke.
• [文献書誌] Ishikawa T,et al.: "Carbon monoxide-induced spatial learning deficit accompanied by perturbation of intracellular signal transducing system in rats." Brain Research.
• [文献書誌] 坂部 武史 他: "虚血と臓器障害:虚血によって何が起こるか" へるす出版, 142 (1991)
• [文献書誌] Sakabe T,et al.: "Advances in Brain Resuscitation" Springer-Verlag.Tokyo, 329 (1991)
• [文献書誌] 坂部 武史 他: "脳蘇生ーその現状と将来ー" 真興交易医書出版部, 178 (1993)