研究概要 |
体外循環回路と小型高性能の膜型人工肺のガス透過膜に,ヘパリンを共有結合することで血管内皮細胞類似の抗血栓性表面に加工できた。この人工肺と回路を用いたヤギの長期ECLA(7日間のV-Aバイパス)では,全身的ヘパリン投与の必要量が従来の半分以下で済むことを論文として報告した。またこの新しいヘパリン結合人工肺によるECLAの臨床応用症例(新生児重症呼吸不全例)の論文を投稿中である。二番目の臨床例は,肺結核による慢性拘束性障害で高度の低肺機能症例の気管分岐部に肉芽が生じ右主気管支を閉塞するようになったためレーザによる切除術を実施したところ,大出血を生じ気道内が血液で埋まり完全窒息となった。緊急にヘパリン結合人工肺によるECLAを実施した。従来,出血症例はECLAの禁忌であったが,ヘパリン結合人工肺を用いることで出血を助長することなく救命できた。ヘパリン結合人工肺がなければ救命できなかった症例であり,研究成果を臨床例で実証できた。 本研究に用いた人工肺は国産であるが,ヘパリン結合処理技術は外国(スエーデン)に依頼しなければならず,そのため種々の制約があり多数の人工肺をヘパリン結合処理することはできなかった。したがって,平成4年度に計画した臨床応用は2例に留まった。しかし本研究が,新しい人工肺にヘパリンを結合できること,ならびにヘパリン結合人工肺の安全性と有効性を実証したので,国内メーカによるヘパリン結合技術開発を促進した。今後1年以内に国産のへパリン結合人工肺が実用化されるであろう。本研究により,従来の膜型人工肺と比較して血漿リーク等もなく安全で簡便な,長期ECLAに最適の出血しない新しい人工肺を開発できたと考える。
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