研究概要 |
上腹部手術後に起こる肺合併症の原因として,横隔膜機能障害が深く関っており,その有効な治療法は知られていない。この治療法を開発し,術後の肺合併症を防ぐと共に,できれば,横隔膜機能障害の機序を明らかにすることが2年間に渡る本研究の目的である。本年度の研究では以下のような成果が得られた。上腹部手術後の横隔膜機能障害は呼吸インダクチブプレチスモグラフで観察した場合,一回換気量に対する胸郭貢献度の増加として表われるが,胸郭と腹部の動きを固時記録した場合,約30%の患者で両者の吸気運動の開始にずれが起こる(通常,腹部の動きが遅れる)ことが判明した。この際,上胸部両側第2,3肋間傍胸骨部に吸気に合わせて100Hzの振動を与えると,胸郭貢献度はやゝ減少し(有意ではない),一方一回換気量は著明に増加(平均51%)した。更に興味あることには,振動前に認められた胸郭と腹部の吸気運動の位相のずれが振動によって完全に消失した。これらの結果は胸壁振動が上腹部手術後の横隔膜機能障害を改善するのみでなく,各呼吸筋運動のタイミングを中枢性に調整し,協調させることを示している。同時に横隔膜機能障害そのものが反射性の抑制であることを示唆する。今回購入した振動器は今までのものと異り,マウスピ-ス,マスクを必要とせず,鼻翼に簡単に固定できる鼻熱線センサ-が鼻呼吸を感知して振動器を動かすので,被検者に不快感を与えず,より信頼できるデ-タが得られた。以上の結果は1月18〜21日行われた第2回日米麻酔会議で既に発表し,又4月の第39回日本麻酔学会総会にも演題が受理されている。
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