1.精漿中に存在する精子運動抑制因子(Seminal plasma motility inhibitor 以下SPMI)の精製分離をヒト及びブタ精漿より先ずSPーSephadex Cー25を通しSPMIの活性のあるフラクションをHPLC逆相カラムにかけ分離を試みているが活性が落ちて純粋なSPMIを現在まで得られていない。そこで本年度の補助金でゲルクロマトグラフィ-に必要なシステムを購入し我々がすでに発表した精製分離の手順に従って行っているところである。2.ヒトSPMIの局在について剖検より得られた精嚢及び前立腺液そして精巣、精巣上体、前立腺、精嚢、肝臓、腎臓、の組織抽出液をそれぞれbiological assayとELISA法にてSPMI濃度を測定した。その結果、精嚢においてのみ高濃度のSPMIを検出しSPMIは精嚢より分泌されることを明らかにした。ブタSPMIの局在は免疫組織学的検討から精嚢の上皮にあることをすでに発表している。本年度は長村らが開発した免疫電顕法(preーembedding method)を用いてSPMIは精嚢上皮のapical surfaceのmicrovilliのみに局在していた。光顕レベルでは精嚢上皮内に染まっていたがこれはSPMIが細胞内へ拡散した為と解釈しSPMIは膜蛋白であることが判明した。現在ブタの組織抽出液そして精嚢及び前立腺液中のSPMI濃度をbiological assay及びELISAにて測定中でSPMIの分泌過程を研究中である。3.不妊症患者の精漿中SPMI濃度と精液所見との関係を調べた。精子運動が活発な精子を有する精漿(control)と運動不良な精子を有する精漿(精子無力症)とでSPMI濃度を比較したところ相関関係を認めなかった。この結果から精子無力症の原因は精漿中のSPMI濃度ではなく精子細胞膜の障害を示唆した。今後精子無力症患者の精子細胞膜はSPMIが容易に通過し運動機構に重要なdynein armに存在するdynein ATPaseを抑制して精子運動に障害を与えたのかあるいは精子細胞膜に付着しsecond messengerがdynein ATPaseを抑制するのか検討したい。
|