研究概要 |
この3年余間に妊婦1028名を加え,総計4724名のHCV関連抗体,抗N-14抗体,抗C-100-3,pHCV34,31抗体)のスクリーニングを当科で実施した。県内産科施設よりキャリア(疑い)妊婦が紹介される為,妊婦の陽性率は1.8%の高率で,健常女性(273人)の0.7%に比して有意に高値であった。抗C-100-3抗体陽性妊婦18名におけるnested PCRによるHCV RNA検出率は78%,肝炎の既往歴は33%,輸血歴は39%,鍼・薬物静注歴(IVDU)は6%で,残り56%の感染源は不明であった。一方,キャリア妊婦14人の夫及び母における抗体,PCR陽性率はそれぞれ22%及び33%の高率で,妊婦キャリアの感染源として母児感染経路や夫妻間感染が何らかの役割を担っている可能性が示唆された。キャリア妊婦の72%,キャリア夫及び全例並びに出生児の50%に肝機能異常が認められ,一方夫群に抗体(-)/PCR(+)の所謂,silent carreirが見られ,家族内にキャリアを有するハイリスク群では抗体のみの検査では不十分である事が示唆された。 PCR陽性妊婦11人の出生児12名を出生より最長15ケ月までプロスペクティブにフォロウアップし,内1名(8%)胎内感染を証明した。同症例は臍帯血より生後8ケ月までPCRが持続し,抗C-100-3抗体は生後4ケ月で陰性化し,その後8ケ月より再び陽性化し,14ケ月まで持続,一方抗N-14抗体は生後4ケ月まで陽性が確認されているが8ケ月より陰性が持続している。血清ALT値は生後3ケ月より上昇し始め,8ケ月で180IU/Lに達した。即ち,この症例は胎内感染によりviremiaを呈し,血清学的肝炎を発症し,血中PCRは陰性化したが自前の抗C-100-3抗体が産生されていると考えられる。この児を今後長期にフォロウアップする事により,胎内感染症例の予後が解明されるであろう。
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