研究概要 |
中耳腔の換気は、耳管機能を重視した幾多の説明があり、耳管開閉で外界気体が補充されると説明されている。しかし、大気圧環境下で周囲を硬い骨に囲まれたポンプ作用の無い空洞臓器の換気は、中耳腔と大気圧の間に気圧勾配が生じればボイルの法則で簡単に気体交換が行なわれる。この観点から、大気圧環境の中耳腔換気と中耳腔の気体素成を検討した。結果;(1)、人中耳腔の酸素は、平均53.65±6.5mmHgを示し、空気中酸素の約1/3である。(2)、モルモットの中耳腔の酸素分圧は、自然空気呼吸時に平均39.3±2.2mmHg(N:23)を示した。50%酸素、70%酸素で呼吸調周をすると、中耳酸素分圧は、42.2±0.84mmHg,46.6±1.1mmHg,と上昇した。純酸素呼吸では、酸素分圧が54.5±3.7mmHgと増加した。低換気では、34.7±0.4mmHgに低下し、呼吸ガスに大きく影響された。(3)、運動負荷による人中耳腔の酸素分圧を観察した。エルゴメタ-でHart rate Max.50%の運動負荷は、運動開始直後に酸素分圧が一端低下し、運動負荷中は酸素分圧が増加した。この過呼吸と循環が動く負荷に対して、(4)、血流増加のみの影響を、頚部交感神経遮断(SGB)で観察すると中耳酸素分圧は、約8mmHg(15%)程度上昇し、血流増加でも中耳腔の酸素分圧が上昇した。 即ち、この結果は、中耳腔に循環や呼吸に影響される呼吸(ガス素成やガス産生)作用がある事を証明している。(5)、また、中耳腔の炭素ガスを質量分析計で測定すると、結果は、約42mmHg前後を示し、中耳腔は、窒素(81.6%)酸素(6.9%)、炭酸ガス(5.5%)、のガス素成で鼓膜を裏側から一気圧の大気圧に抗して支え、大気圧と平衡する粘膜ガス代謝がほぼ確実である。この現象は、肺呼吸の酸素と炭酸ガスを交換する完全ガス交換では無いが中耳腔に呼吸作用がある事を証明するものである。
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