研究概要 |
中耳腔の気体素成は、恰も空気の様に考えられ、耳管経由の外界気体で補充される説明がなされている。しかし、大気圧環境の中耳腔は、周囲を硬い骨に囲まれポンプ作用もない所から、換気の手段として中耳腔にガス産生能を持ち、このガス圧が大気圧との間に気圧匂配を作ってボイルの法則で中耳腔の余分なガスを咽頭に排出してる。そこで、本年は、このガス素成をマススペクトロアナライザーで検討した。装置の吸引量は、中耳腔の気体産生量に合わせて、10_<-6>ml/minとした。 測定結果;人中耳腔のガス素成は、正常者でN_2;595.3±4.8torr,O_2:64.8±6.0torr,Co_2:46.3±2.3torrが得られた。この結果、中耳腔のガス素成は、炭酸ガス値が約6%前後、酸素分圧が約8%前後を示す事が分かった。しかし、我々が数年前にクラーク型の酸素センサーを用いて直接中耳腔の酸素を測定した値(53.65±6.5torr)と比較すると、約10torr程の酸素分圧が高い値を示す。この原因の1つには、鼓膜を切開して直ちに測定すると比較的53torrに近い酸素分圧が得られるが、切開して10分程測定までに時間がかかると、大気中の酸素が中耳腔に拡散してコンタミが早期に起こる事が想像された。因みに、外傷性の鼓膜穿孔例では、炭酸ガス値は、正常値に近い値を得る事が出来るが、酸素分圧は、遥かに大気に近い値を示す。この事から臨床的に、鼓膜が穿孔したり、切開されたり、鼓膜換気チューデが挿入されたりすると、中耳腔の酸素分圧が高い値で維持される事が判明した。この現象が滲出性中耳炎等の鼓膜換気チューブを挿入する治療法とどの様な因果関係を持つかは今後の研究課題である。 そして、この現象は、肺呼吸の酸素と炭酸ガスを交換する完全ガス交換では無いが中耳腔に呼吸作用がある事を証明したのもである。
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