研究概要 |
1)末梢性顔面神経麻痺52例(ベル麻痺46例、ハント症候群の6例)にMRIを施行し、GdーDTPA投与(0.1mmol/kg)前後で造影増強の有無を比較した。発症後1ヶ月以内にMRIを行った症例では、ベル麻痺の89.5%、ハント症候群の100%で膝神経節に造影増強が認められた。また、内耳道底、迷路部、鼓室部、乳突部などにも造影増強が認められた。これに対し正常人4例では造影増強は認められなかった。以上より、ベル麻痺,ハント症候群の病巣は側頭骨内顔面神経の広い範囲にわたるが、主な病巣は膝神経節にあることが明らかにされた。 2)顔面神経減荷術時に、膝神経節から垂直部までの間で神経を電気刺激し,顔面表情筋の誘発筋電図を記録する術中診断法を開発した。ことに成功した。また,アブミ骨が電気刺激と同調して働くことを記録した。以上の検査は,神経損傷程度や部位診断に有用であることを明らかにした。 3)HSV1型(KOS株)をBalb/o系マウスの一側耳介に接種することにより一過性顔面神経麻痺を発症させることに成功し、この動物の顔面神経を病理組織学的および免疫組織学的に研究を行った。その結果、麻痺側顔面神経の膝神経節,神経線維にリンパ球浸潤、神経線維束に空胞変性などのウイルス性顔面神経炎を疑わせる所見が認められた。また間接蛍光抗体法により麻痺側顔面神経の膝神経節細胞、衛星細胞、シュワン細胞、神経線維よりHSV抗原が確認された。非接種側には炎症所見、HSV抗原ともに認められなかった。この動物モデルの麻痺の経過や病理所見は数例のベル麻痺の病理組織所見の報告と酷似しており、HSVの感染がベル麻痺の原因の一つであることを初めて動物実験により明らかにした。
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