1.ウサギ水晶体上皮細胞にインテグリンスーパーファミリーのβ_1サブユニットが存在することを免疫蛍光抗体法で明らかにし、フィブロネクチンが主たる接着因子の一つであることが、推測された。フィブロネクチンの活性フラグメントであるRGDSペプチドの細胞接着阻害作用はpolymerの方がmonomerより強いと言う報告があるためRGDSの4倍体の合成法について検討し、その方法を確立した。 2.培養水晶体上皮細胞の培養液中にRGDSペプチドを添加すると、細胞が接着器質から剥離し、後発白内障の予防に効果があると期待された。この効果はmonomerよりpolymerにより強く認められた。またpolymerにおいても細胞毒性は認められなかった。 3.RGDSペプチドの生物学的活性をin vivoで観察するために必要な合成ペプチドの濃度は数百μg/mlの単位であり、また投与方法として週に2回程度の投与か徐放剤による長期投与が有効であると考えられた。そこで、費用の点からRGDS polymerの使用は困難なため、RGDS monomerを使用してin vivoの動物実験を行った。 4.ウサギ水晶体を計画的襄外法で摘出し、後発白内障の原因となる水晶体上皮細胞の動態を光学顕微鏡を用いて観察すと、術後約2週間で、ほとんどの標本に後襄の中央部まで水晶体上皮細胞の移動が認められた。これは臨床的な後発白内障の病理所見とほぼ類似しており、この方法により得られた眼球は後発白内障の動物モデルとして使用することが可能と考えられた。 5.次に、ウサギに同様な手術を施行後、上記合成ペプチドを徐放剤に取り込ませ、これを接着させた人工水晶体を後房に移植し、術後1および2週で眼球を摘出し、光学用切片を作成した。なお、対照には合成ペプチドのかわりにPBSを取り込ませた徐放剤を使用した。術後1および2週ともに合成ペプチドを使用した群において水晶体上皮細胞の移動を抑制する傾向が認められたが、有意差の検討は今後標本数を増加させた後に行う必要がある。また臨床的な使用には角膜内皮細胞に対する影響についても検討すべきである。 6.人工水晶体に本薬剤を吸着させる方法として徐放剤よりも、より臨床的な放射線照射を試みたが、現在のところその有効性は培養細胞を用いた実験では不明で、今後吸着させる厚みを増して検討予定である。
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