研究概要 |
アクリル樹脂は、操作性、審美性、化学的安定性、機械的性質に優れているため、歯冠修復をはじめ広く歯科治療に利用されているが、重合時に収縮し修復物の適合性を低下したり、硬化物内部に歪を生じ接着力を低下したり、修復物の変形の原因となる。そこで、重合時に膨張が期待できるスピロ環と、アクリレートとの共重合が可能なビニール基を分子内に持つスピロ環誘導体を合成し、適合性の良い歯科修復用レジンの開発を目指して本研究を行った。その結果、以下のような結論を得た。1)エピブロモヒドリン、ε・カプロラクトンとアクリル酸およびメタクリル酸から側鎖にスピロ環を持つ2種のモノマー(ASOE;2-Acryoxymethyl-1,4,6-trioxaspiro-[4.6]undecaneおよびMASOE;2-methacryloxymethyl-1,4,6-trioxaspiro[4.6]undecane)が合成された。2)両モノマーについてイオン重合開始剤(スルフォニウム塩;BSS,HPSS)を用いた加熱重合において、スピロ環およびビニール基の両方の重合が確認され、加熱重合においてはプラスチック状のポリマーが得られた。そして、従来のビニールモノマーに比べて有意に小さな重合収縮を示した。3)MMAとMASOEからなる共重合体粉末(poly-MMA/MASE)は側鎖に未反応のスピロ環を有し、MMAに良く溶解した。イオン重合開始剤を用いた粉液重合)(加熱重合)においては、スピロ環の開環橋架け反応と、ビニール基の重合によってPMMAと同等の機械的性質を持ち、PMMA/MMAの粉液重合時より小さな重合収縮を示すポリマーが得られた。4)ASOEとイオン重合開始剤(スルフォニウム塩)による光イオン重合(Hg-Xeランプ)を行ったところ、両モノマーはスピロ環およびビニール基の両方で重合が確認され、増感剤の併用によってさらに重合が促進され、重合率も増加した。したがって、この種のスピロ環誘導体によって常温重合型の歯冠修復用レジンの重合収縮の改善が可能になるものと期待される。
|