痛みの認知機構に対する中枢の役割については、現在全くといってよいほど解明されていない。そこで本研究では、知覚神経の末梢に加えた侵害刺激が、中枢のどの部位の神経活動に影響を与えるかということを究明するために行った。そして、これまでの研究で、サイアミラール麻酔下のラットの三叉神経末梢の上唇部に電気的侵害刺激を加えた場合、大脳皮質の体性感覚野においては、電気的侵害刺激を加えた側とは反対側のC-14デオキシグルコース濃度が同側にくらべて高いことが判明した。C-14デオキシグルコース濃度が高い部位は低い部位にくらべて神経活動が活発であったことを示しているので、侵害刺激を加えた側とは反対の体性感覚野がより侵害刺激を受容していることを代謝面より確認することができた。尚、電気的侵害刺激を加えなかった場合には左右の大脳皮質体性感覚野のC-14デオキシグルコース濃度に差はみられなかった。ところで今回の研究では大脳辺縁系でのC-14デオキシグルコース濃度については十分な分析ができなかったが、サイアミラール麻酔下のラットの三叉神経末梢の上唇部に電気的侵害刺激を加え大脳辺縁系より誘発電位の記録を試みた。その結果、侵害刺激を加えた側とは反対側の海馬より誘発電位の記録が可能であった。大脳辺縁系は痛みに対する情動的反応の関与が推測されている部位である。今後は痛み刺激に対する大脳辺縁系の活動部位を分析する必要があり、C-14デオキシグルコース法ならびに誘発電位の記録によって研究を進めたいと考える。
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