痛みの認知機構に対する中枢の役割については、現在全くといってよいほど解明されていない。そこで本研究では、知覚神経の末梢に加えた侵害刺激が、中枢のどの部分の神経活動に影響を与えるかということを究明するために行った。対象は体重500〜550gの雄のWistar系ラットである。サイアミラールの腹腔内投与下に、右側大腿静脈よりC-14デオキシグルコース50μCiを静脈内投与した。そして、ラットの三叉神経末梢で眼窩下神経支配領域の右側上唇部に電気的侵害刺激を45分間与えた。その後、断頭し凍結した後、-20℃で前頭部より後頭部にかけて厚さ20μmの冠状切断を行った。凍結切片を乾燥後、オートラジオグラフを行った。その結果、非刺激側である左側大脳皮質体性感覚野のC-14デオキシグルコース濃度は、刺激側である右側に比べ高く、その濃度比は、1.09〜1.29(1.17±0.08)であった。C-14デオキシグルコース濃度が高い部位は低い部位にくらべて神経活動が活発であったことを示しているので、非刺激側の大脳皮質体性感覚野がより侵害刺激を受容していることを体謝面より確認することができた。なお、電気的侵害刺激を加えなかった場合には、左右の大脳皮質体性感覚野のC-14デオキシグルコース濃度に差はみられなかった。ところで、今回の研究では大脳辺縁系でのC-14デオキシグルコース濃度については十分な分析ができなかったが、サイアミラール麻酔下にラットの三叉神経末梢の上唇部に電気的侵害刺激を加え大脳辺縁系より誘発電位の記録を試みた。その結果、非刺激側の海馬より誘発電位の記録が可能であった。大脳辺縁系は痛みに対する情動的反応の関与が推測されている部位である。今後は痛み刺激に対する大脳辺縁系の活動部位を分析する必要があり、C-14デオキシグルコース法ならびに誘発電位の記録によって研究を進めたいと考えている。
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