研究概要 |
歯牙電気刺激による体性感覚誘発電位(SEP)ならびに左右弁別課題を施行した聴覚誘発電位の標的刺激波形である事象関連電位(ERP)を測定して、向精神薬であるイミプラミンとカルバマゼピンの口腔領域における鎮痛効果と、中枢での情報処理過程を客観的に定量した。SEPでは、向精神薬投与後の波形成分において、N_2-P_2振幅(痛み関連電位)が七検定にて有意な減少を認めた。また、N_3潜時の有意な延長がみられた。ERPにおいては、P_3(P300)の有意な振幅減少と潜時延長を認めた。これより、向精神薬であるイミプラミンとカルバマゼピンは大脳の高位中枢である高次連合野、広汎連合野あるいは海馬に作用して抑制作用をもたらし、2次的にSEPのN_2-P_2振幅の低下にみられるような鎮痛効果を呈することが示唆された。 次いで、舌(鼓索神経・舌神経)電気刺激による味覚誘発電位(GEP)とSEPを記録し、主観的感覚(味覚・体性感覚)とGEP,SEP波形を比較して、本来主観的感覚の要素の強い味覚を客観的に定量した。そして、味覚の中枢における認知過程の解明も試みた。舌に電気刺激を加えると、全ての誘発電位波形にN_1,P_1,N_2,P_2の頂点潜時特性をもつ4相性の波形成分が認められた。これらはSEP成分であった。電流強度を増加させると、SEPの潜時では有意差はみられなかったが、痛み感覚と深く関連し、意識レベルにも関わりをもつN_2-P_2振幅のみがt検定により有意に増加した。また、同一電流強度でも味覚が誘発されたときのGEPと味覚を誘発しなかったときのSEPを比較すると、共通波形成分のSEP成分に有意差は認めなかった。しかし、味覚を誘発したときのGEPのみに、SEPのN_1とP_1の間に特有の陰性成分であるN100が出現した。これは、味覚を受容・伝達する際の情報機構を反映し、味質選択過程にも関与した電位であることが示唆された。
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