研究概要 |
咀嚼の次に続く「嚥下」が良好に行なわれ鼻咽腔閉鎖も完全になされることで,人体に不可欠な生命維持の投割を担える。咀嚼-嚥下-呼吸は一連の相互作用で成立し,中でも「舌」は重要な役割は持つ。それゆえ,「咀嚼障害」の客観的な判定基準の一つとして,本研究で新たに開発した「呼吸・嚥下機能解析プログラム」を用いた「呼吸・嚥下機能解析システム」は画期的な手法であろう。今回本システムを用い,7〜20歳の口蓋裂患者より採取した資料と正常咬合者のと比較した結果から,下記の新知見が得られた。1.安静時と水嚥下時,及び[asa]・[ata]発音時は,高い再現性が認められた。2.正常咬合者の呼吸・嚥下パターンと比較し,また治療後及び保定後の結果から治療前の状態を再判定することで,予後の良否が推測できるとともに機能改善度も判定できた。3.上顎の側方狭窄はないが下顎前歯の唇側傾斜による反対咬合の口蓋裂患者では,嚥下時の舌接触運動が不規則であった。4.鼻咽腔閉鎖が良好な口蓋裂患者でも,上顎の狭窄が著しいと舌は低位でかつ後退し下顎も回転しいっそう鼻呼吸しにくい。5.咬合接触しない側方歯を有する小児患者では,咀嚼と嚥下が不規則となるため食物の丸飲みを強いられ心理的にも身体発育上でも不利益となる。6.顎裂部を中心に垂直的な顎態の変形により,嚥下運動の不安定性が著しい。8.狭窄が著しい小児の口蓋裂患者では側方の咬合接触を混合歯列期までにQuad helixで作り,正しい舌位置の習得に下顎へタングクリブ併用が著効である。これで舌は上昇でき鼻呼吸しやすくなることが確認された。9.時期を選び筋機能療法(MFT)を用いての摂食・嚥下訓練も有効であろう。以上から,呼吸・嚥下機能の鑑別診断を確立し治療計画策定に反映させることが有益と示唆された。なお,本学では口蓋裂診療班による毎月の合同診察で総合的な長期治療計画を策定し多大な成果を上げている。
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