研究概要 |
ヒトltk遺伝子はK562細胞株のcDNAライブラリ-からcーfmsをプロ-ブとしてクロスハイブリダイゼ-ションによって得られたチロシンキナ-ゼ遺伝子である。この遺伝子の発現は一部の白血病患者細胞およびいくつかの白血病細胞株において認められるが、固形癌の細胞株では発現を認めず、造血細胞に特異性の高い遺伝子であることが明らかになっている。当初,細胞外ドメインをほとんど持たない細胞膜貫通型蛋白であると考えられていたが、マウスltkはヒト遺伝子で予想された翻訳開始点のATGに相当する所よりも上流のCTGを翻訳開始点に持ち、より大きな細胞外ドメインを持つことが明らかになった。我々はヒトltk遺伝子産物の細胞外ドメインの構造を明らかにする目的で,ヒト胎盤cDNAライブラリ-から正常ヒトltk遺伝子を多数クロ-ニングし,その遺伝子構造を解析した。その結果,ヒトltk遺伝子においてはその翻訳開始点はマウスltk遺伝子に相当する部位よりもさらに上流に位置し,通常の翻訳開始点であるATGから開始されると考えられ,ヒトltk遺伝子産物はリガンドを認識し得る大きさの細胞外ドメインを持つレセプタ-型チロシンキナ-ゼであることが明らかになった。さらにalternative splicingによりコ-ディング領域に違いのある少なくとも3種類以上のmRNAが発現していることが明かとなっており、このうちの一つでは細胞膜通過部分に続いてstop codonが出現し,キナ-ゼドメインを欠くltk蛋白の存在が示唆された。このうちの一つのltkcDNAをCOS細胞に導入し,そのチロシンキナ-ゼ活性を検討した結果,ltk蛋白は弱いながらも蛋白としてのチロシンキナ-ゼ活性を有することが確かめられた。
|