研究概要 |
自然発症てんかんラット(tm/tm,zi/zi)におけるてんかん発作の発生機序を遺伝子から解明する目的で、原因遺伝子のクローニングに向けた研究を行った。ラットにおける遺伝マーカーは乏しくラット遺伝子地図は未整備であったので、先ずその整備を進めた。tm遺伝子の連鎖解析は、TRMへテロラット(tm/^+)を用いた2種類の戻し交雑仔によった。tm遺伝子はラット第10染色体上のSyb2遺伝子とは175匹中全ての個体で組み換えがなく、ラットSyb2遺伝子をプローブに用いた蛍光in situ hybridizationによって、Syb2遺伝子とtm遺伝子を第10染色体q24領域にあてはめた。シナプス小胞上の膜タンパクSYB2をコードしているSyb2遺伝子がtm遺伝子そのものではないかと疑われたが、TRMラットのSyb2遺伝子の塩基配列に変異は検出されなかった。また、TRMラットの全脳には、Syb2遺伝子はサイズ・量ともに正常に発現していた。zi遺伝子の連鎖解析は、ZIラットを用いた2種類の戻し交配実験によった。zi遺伝子はラット第3染色体上のPrnp遺伝子とは136匹中135匹の個体で組み換えがなかった。ラットPrnp遺伝子をプローブに用いた蛍光in situ hybridizationの結果から、Prnp遺伝子とzi遺伝子を第3染色体q35領域にマップした。海綿状脳症に関与していると報告されているPRNPタンパクをコードしているPrnp遺伝子がzi遺伝子そのものではないかと疑われたが、ZIラットのPrnp遺伝子の蛋白コーディング領域の塩基配列に変異は検出されなかった。また、ZIラットの全脳には、Prnp遺伝子はサイズ・量ともに正常に発現していた。以上のように、連鎖解析の過程でSyb2遺伝子およびPrnp遺伝子という「候補遺伝子」が見い出されたが、これらは原因遺伝子そのものではないと考えられた。しかし、得られた近接DNAマーカーは、tmとzi両遺伝子をクローニングするための起点として大きな価値がある。
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