基底膜結合性の新しいコラ-ゲンの構造と機能

1991 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 03454538
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 林 利彦 東京大学, 教養学部, 教授 (60090528)
• 研究分担者: 安達 栄治郎 大阪大学, 医学部, 助教授 (30110430) ; 今村 保忠 東京大学, 教養学部, 助手 (40201339)
• キーワード: コラ-ゲン / コラ-ゲンIV型 / 基底膜 / 血管基底膜 / 細胞外マトリックス / 単クロ-ン抗体 / 肝線維症 / 免疫組織化学

研究概要

基底膜結合性の新しいコラ-ゲン(BAC)の存在はヒト胎盤よりペプシン処理により単離したIV型コラ-ゲン画分に対する単クロ-ン抗体の一つが特異的に認識することから発見された。従来より知られているIV型コラ-ゲンの構成ペプチド鎖にはα1からα5までの5種があるが、これまでに報告されている性質、構造(免疫組織化学的検索および部分アミノ酸配列)と比較するとそのどれにも合致しないということから新しいものと考えている。しかし、α3、α4、α5の各鎖は比較的最近発見されたもので、必ずしも十分特徴づけが行なわれていないので、完全を期すためには全一次構造についての情報が必要である。また、オルタナチブスプライシング産物である可能性も否定できない。BACのアミノ酸配列を得るべく、オリゴヌクレオチド法あるいは発現ベクトル法を用い、ヒト胎盤cDNAライブラリ-から相当する遺伝子のクロ-ニングを試みている。免疫組織化学的にBACはIV型とは異なり、血管の基底膜に優先的に分布し、表皮一真皮境界や筋線維の周囲の基底膜には存在しない。肝臓の類洞には基底膜は存在しないが、IV型コラ-ゲンおよびBACの存在が判明した。管腔壁に特異的かもしれない。抗α1(IV)に対する抗体と抗BAC抗体の二種の抗体を用いたサンドイッチELISAで反応する物質がヒト胎盤抽出物に存在するがこれは比較的温和な条件で解離することから、共有結合でない相互作用で結合した複合体と考えられる。このような複合体はヒトの血中にも存在し、特に肝疾患わけても肝線維症の血清中で高いレベルを示した。一方、ヒト胎盤からペプシンを用いないで抽出した画分にウェスタンブロッティングで検出される180K,160Kのサイズのポリペプチド鎖が還元後にはじめて見られるという知見が得られ、BACがIV型コラ-ゲンファミリ-である可能性を示唆する。

研究成果

• [文献書誌] E.Adachi: "A Comparison of the Immunofluorescent Localization of Collagen Types I,III,and V with the Disribution of Reticular Fibers on the Same Liver Sections of the Snow Monkey(Macaca fuscata" Cell and Tissue Research. 264. 1-8 (1991)
• [文献書誌] T.Nishiyama: "Response to Growth Factors of Human Dermal Fibroblasts in a Quiescent State owing to Cellーmatrix Contact Inhibition" Matrix. 11. 71-75 (1991)
• [文献書誌] 林 利彦: "人工皮膚" 表面. 29. 1-9 (1991)
• [文献書誌] 西山 敏夫: "コラ-ゲンゲル内での正常線維芽細胞と線維肉種細胞(HT1080)の挙動の相違" 組織培養研究(TCRC). 9. 87-92 (1991)
• [文献書誌] M.Tsunenaga: "Effect of Hyaluronate on Physicochemical and Biological Properties of Collagen Solution which could be Used as Collagen Filler" Connective Tissue Research.
• [文献書誌] J.Kino: "A Novel Chain of Basement Membrane Collagenーassociated Collagen as Revealed by Biochemical and Immunohistochemical Characterizations of the Epitope Recognized by a Monoclonal Antibody Against Human Placenta Basement Membrane Collagen" American J.Pathology. 138. 911-920 (1991)
• [文献書誌] 林 利彦: "人の体は再生できるか" マグロウヒル出版株式会社, 190 (1991)
• [文献書誌] T.Hayashi: "Collagen as a Potent Reglator for Cellular ActivityーCollagen Matrixーto Cell Contact Inhibitionーin “Fundamental Investigations on the Creation of Biofunctional Materials"ed.by S.Okamura et al(55ー64)" Kagakuーdojin, 196 (1991)