研究概要 |
大腸菌染色体上のtonB遺伝子及びpZ189プラスミド上のsupF遺伝子を標的として、突然変異の特異性をDNA塩基配列のレベルで調べることができるような実験系を作った。染色体上tonB遺伝子を標的とした場合、自然突然変異では、IS因子挿入が変異の主原因であること、IS10挿入に関し、宿主uvrA遺伝子が阻害的に機能してることが明かとなった。また、染色体の欠失変異の場合、宿主のrecA遺伝子産物は、欠失形成に何の役割もはたしていないこと、欠失の組換え点には、相同配列はほとんどないことが明かとなった。従来、DNAの欠失は、相同配列を介して、recombinationまたはDNA複製のslippageによって形成されると考えられていた。今回の結果より、欠失の新しいモデルを提起することが次の目標となる。一方プラスミド上のsupF遺伝子を標的とした場合、IS因子が原因となって突然変異を形成するよりは、塩基置換による変異が多く(63.5%)、GC→TA(塩基置換の45%)、GC→CG(塩基置換の27%)のトランスバージョンが大多数を占めた。この結果は、過酸化水素で変異を誘発した場合の結果と非常によく一致した。従って、自然塩基置換突然変異は、生理的代謝で生じた水酸ラジカルにより、DNAのグアニンに損傷が入り、トランスバージョン型変異を引き起こすというモデルを提唱することができる。今後は、柴外線その他の多くの変異原を用いて、変異の特異性を調べるとともに、欠失変異のおこりやすい変異株(bg1Y,xonA,topB)やグアニン水酸化損傷修復遺伝子(mutT,mutM,mutY)での特異性を調べることで、より詳細に突然変異の由来を明らかにすることができると思われる。
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