ADF(ATL由来因子)/チオレドキシンの放射線障害防御作用に関する研究

1992 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 03454551
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 内田 温士 京都大学, 放射線生物研究センター, 教授 (10185019)
• 研究分担者: 淀井 淳司 京都大学, ウイルス研究所, 教授 (80108993) ; 杉江 勝治 京都大学, 放射線生物研究センター, 助手 (70226439)
• キーワード: 造血幹細胞コロニー形成 / フリーラジカル / ADF / 放射線障害防護

研究概要

申請者はBRM(生体反応修飾物質)の放射線を含む生体侵襲、ストレスに対する生体の防御作用機構の研究を進めてきた。放射線による初期障害は、放射線照射により生体内に発生したフリーラジカルが主な原因だと考えられている。ヒト成人型T細胞白血病患者から樹立されたT細胞株の培養上清に発見されたタンパク質であるADF(ATL由来因子)は、ジチオール基を介した強力なチオレドキシン様の還元活性など多彩な作用をもち、前年度の研究で、ADFは放射線防御作用があることをマウスの系で証明した。第6-8週のマウスに7.5-9.0Gyの致死線量の放射線を照射し、照射直後から遺伝子組換え型ヒトADFを400μg/日/マウスのADFを隔日に6回投与したところ、マウスは急性死を免れ、30日後にも70-100%生存していた。アミノ酸配列を人工的に変えた還元活性の少ない遺伝子組換え型ADFを作成し、それを投与したところ、放射線防護作用はみられなかった。ADFが放射線防護効果を発揮するには、放射線照射前または直後に400μg/日/マウスのADFを隔日にしかも頻回投与することが必須であった。遺伝子組換え型ヒトG-CSF(顆粒球コロニー形成促進因子)は照射後の連日投与が必須であり、隔日投与は効果がなかった。放射線照射マウスにADFを投与することにより、ナチュラルキラー(NK)細胞活性の放射線による低下が阻止された。ADF投与により、放射線照射により障害された脾の造血系コロニー形成能は回復しなかったにもかかわらず、マウスは骨髄死を免れた。これらの結果は、ADFによるNK細胞を含む生体防御機能の活性化が細菌感染やウイルス感染に対する防御機構で重要である可能性を示唆している。

研究成果

• [文献書誌] Iwata S.,Matsuda M.,Sugie K.,Maeda Y.,Kawabe T.,Yodoi J.: "Signal transduction via Fc receptors;Involvement of tyrosine kinase and redox regulation by ADF." Redent Advances in Mucosal Immunology.
• [文献書誌] Sorachi K.,Sugie K.,Maekawa N.,Takami M.,Kawabe T.,Yodoi J.: "Induction and function of FceRII on YT cells;Possible role of ADF/Thioredoxin in FceRII expression." Immunobiology. 185. 193-206 (1992)
• [文献書誌] Makino S.,Masutani H.,Maekawa N.,Konishi I.,Yodoi J.: "Adult T-cell leukemia-derived factor/thioredoxin expressed on the human T lymphotrophic Virus-1(HTLV-1)transformed T cell lines" Immunology. 76. 578-583 (1992)
• [文献書誌] Yamauchi A.,Masutani H.,Yagaya Y.,Wakasugi,N.,Mitui A.,Yodoi J.: "Lymphocyte transformation and thiol compounds;The role of ADF/thioredoxin as an endogenous reducing agent." Molecular Immunology. 13. 405-411 (1992)