胚幹細胞や生殖細胞などの全(多)分化能を持った細胞に特異的に認められる転写制御因子Oct3は、初期発生を支配する遺伝子カスケ-ドにおいて、重要な位置を占めると考えられる。この転写制御因子の機能・初期発生の於ける役割などについて以下の知見を得た。 1.アンチセンス法によりOct3のレベルを低下させた胚幹細胞、胚幹細胞と線維芽細胞とのハイブリッド細胞など種々の細胞を用いて、Oct3の発現と平行して変化する遺伝子をいくつか同定した。これらの遺伝子は、Oct3の直接的あるいは間接的な制御下にあるものと推定された。各々の遺伝子について、その転写制御領域を解析し、直接の支配下にあるかどうかを調べている。 2.上記の種々の細胞の形質を調べた所、Oct3が細胞の分化能の維持に必要である事が示唆された。 3.DNA結合実験を簡便にするため大腸菌中でOct3蛋白質を生産し、またその抗体も得た。精製したOct3を用いて、DNA結合特異性の全体像を調べた所、予想よりも多くの塩基配列を認識する事が判った。またoct3遺伝子の発現パタ-ンを、抗体を用いて蛋白質レベルでも確認した。 4.oct3遺伝子自身の発現調節のメカニズムを知るため、その発現調節領域を決定した。さらに、この領域を認識する蛋白因子を検出した。そのような蛋白因子の一つは、その存在パタ-ンよりoct3遺伝子を抑制するものと予想された。今後この蛋白因子をクロ-ニングのレベルで同定していく予定である。
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