ユビキチン(Ubiquitin)は単なる蛋白質分解指標としてだけにとどまらず、極めて多様な細胞機能に関わっている。例えば、哺乳動物培養栽培の細胞周期との関わりで、ユビキチン活性化酵素E1の遺伝的欠損がG2期進行阻害を引き起こし、染色体凝縮を抑制している可能性が指摘されてきた。本研究の成果によれば、やはり活性化酵素E1の変異によりDNA合成期の開始と進行においても著しくその機能が阻害されることがわかった。また細胞分裂期への関わりとして、ユビキチン系の異常により染色体の倍数性が上昇することからその維持にも関係していることが判明した。これらはいずれも、それぞれの時期での細胞周期進行に関わる調節蛋白質、あるいは染色体機能を制御する核蛋白質がユビキチン化され、その分解ないし機能修飾を通して制御に必須の機能として作用していることが想像された。これら細胞機能の範囲、またその発現調節の特異性を保障するE1によるE2の分離識別関わる機構として最近われわれは、活性化酵素E1の特定部位がcdkキナーゼによりリン酸化されていることを示した(投稿準備中)。マウスE1酵素のSer4残基は細胞内でcdc2キナーゼによりリン酸化され、この部位の変異はG2期進行阻害を引き起こす。これはM期開始のシグナルの分子的解析をcdc2キナーゼ(MPF)の活性化から一段深化させるものである。他方、Ser835残基は少なくともin vitroでcdc2キナーゼによりリン酸化され、この部位の変異はG1/S期進行阻害を引き起こすことから、細胞内ではcdk2によるリン酸化を受けているのではないかと想像される。これらのことは、細胞周期制御の中枢を担うcdkリン酸化酵素でE1酵素がリン酸化されることにより特定のE2酵素を認識し、これにより周期特異的なユビキチン経路を発現させていることを強く示唆している。
|