高分子強誘電体ポリフッ化ビニリデン(PVDF)I型結晶及び極性II型結晶を初期構造とするモデル系の分子動力学シミュレ-ションを行い、以下の諸点を明らかにした。 1.PVDFにおける強誘電・反強誘電相転移の存在:分子鎖長を平面ジグザグの鎖長に保って形態変化を抑制したPVDFの分子動力学シミュレ-ションにおいて、静電力の遠距離部分を除くと、I型結晶(強誘電相)を初期構造とする系の結晶構造は無極性構造へ変化する。結晶構造は周期境界条件に依存し、2本、および4本の分子鎖からなる動力学セルの場合、それぞれ、この仮説的無極性結晶は分子鎖の双極子が反平行、及び循環する反極性構造を示す。これらの無極性結晶は電場下で強誘電相へ転移するから反強誘電体である。静電力の遠距離部分の切断によって転移が起きることは進誘電相の安定性に静電相互作用が大きく寄与していることを意味する。 2.PVDFの常誘電相(高温相)の構造:II型分子鎖を、VDFーTrFE共重合体高温相の格子定数を用いて平行配列した構造を初期構造とする分子動力学シミュレ-ションにおいて、4ユニット9本鎖の極性構造を初期構造とする系は520Kで鎖軸周りの回転と捻れによって鎖軸に垂直な方向について無極性化する。各分子鎖のコンフォメ-ションもTGTG^ーから乱れてT_3G等が生じている。分子鎖コンフォメ-ションの軸方向の無極性化は起きない。鎖軸方向の無極性化はモデルサイズに依存し16ユニットからなる1本鎖の系では736Kで軸方向の無極性化と軸方向の反転が生じる。鎖軸方向の無極性化が鎖軸に垂直な方向の無極性化より起き難いことは、2種の異なる相転移温度の高温相の存在を示唆する。
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