研究概要 |
1.イタボヤ類におけるallorecognition反応には,即時型の群体特異性(colony specificity)と遅延型のcolony resorptionがあることが,すでに我々によって報告されている.今回,ウスイタボヤBotryllus schlosseriにおいて,後者のcolony resorptionの反応が2群体の組み合わせによって,ある群体が相手群体を吸収したり,逆に吸収されたりすることが観察された.そこで様々な系統の群体間でどちらが優勢なのかを調べたところ,各群体の優位性に階層が有ることが明らかとなり,このヒエラルキーは遺伝的に決定されていることを示唆するデータを得た. 2.シモフリボヤの被嚢中に存在する被嚢細胞の中に,ラテックスビーズを貪食する細胞が多く分布していることを発見した.この細胞は他の被嚢細胞と比して移動能が高く,液胞中にパーオキシダーゼ活性を持つなど,異物排除に深く関与していると思われる.ホヤは,体の外側を被嚢によって被われているので,被嚢細胞が非自己成分の侵入に対する初期認識細胞と考えられる. 3.コケムシの自己・非自己認識に関与する細胞の候補としては,体腔細胞が考えられるが,コケムシの体腔細胞についての研究報告はほとんどなかった.本研究で,チゴケムシには4種類の体腔細胞があり,その内のアメーバ様の細胞(phagocyte)がラテックスビーズを貪食する能力を持っていることを明らかにした.このphagocyteが生体防御や自己・非自己の認識に主要な役割を果たしていると思われる. 4.クロイソカイメンやダイダイイソカイメンでは,10m四方程度の限られた場所から採集した個体間でも癒合する組み合わせがなかった.一方,一つの雌個体より採集した幼生の間では,80%以上の癒合が認められた.しかし,癒合後数日たって崩壊するものが非常に多いことから,幼生の時点ではallorecognition能が未熟である可能性が考えられる.
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