研究概要 |
褐藻の光捕捉色素蛋白,fucoxanthin-Chl/c蛋白(FCP),は極めて不安定で、光合成系の研究に適用されている分離法でこの蛋白を分離しようとすると、この蛋白に結合するfucoxanthinを変性させ、色素間のエネルギー転移を損傷させてしまう。我々はこの蛋白を光合成系から分離する条件を検討し、この蛋白が相互に会合した形で光合成の反応中心と複合体をつくり、この複合体が緑色植物のLHCPのようにチラコイド膜に埋まって光合成に寄与していること、この複合体はシュガ-エステル処理によってエネルギー転移活性を保持したまま単量体に解離できることを明らかにした。FCP単量体は分子量20,226(Ectocarpusの場合)の蛋白lとChl a 4,fucoxanthin 4,Chl c 1分子から成りfucoxanthin→Chl a,Chl c→Chl aの両過程で95%以上のエネルギー転移を示した。Chl aへのエネルギー転移活性をもつfucoxanthinは遊離のfucoxanthinより長波長に吸収をもつが、この吸収型はイミノ態Nをふくむ有機溶媒中の吸収型に近く、光捕捉系のfucoxanthinは極性の高い場にあることが推定される。この長波長型のFCPは40℃程度の温度処理で短波長へ青色移行し、fucoxanthin→Chl aのエネルギー転移は失われ、長波長型のFCPに見られた強いCDスペクトルは消失し、色素分子の配列の規則性が失われたことを示す。しかし、この青色移行をおこした後でもfucoxanthinの共鳴ラマンスペクトルには変化がなく、fucoxanthinの分子内構造の変化は起こっていないことがわかる。光捕捉に活性のある状態ではfucoxanthinとChl aが強い相互作用をもつ共軛対をつくり、この相互作用がfucoxanthinの吸収型を長波長に移行させていると説明される。
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