当該研究課題に関する、カナダ・ケベック、ネパール・ヒマラヤ、福島・田島、日本アルプスにおける調査の結果明らかになったことの要点を以下にまとめる。 カナダ・ケベックでの、森林内外の降水中のNH_4^+とNO_3^-の窒素化合物濃度については、林内で林外より低濃度になっており、生物活動による化学変化および消費が推察された。また、積雪下面融雪水中の溶存物質濃度は、林外でのみ日変化が明瞭であり、日変化のパターンはH^+とNO_3^-が同じで、Ca^<2+>とSO_4^<2->はそれと逆の変動パターンを示す。林外での積雪下面融雪水の水量とH^+濃度による流出成分分離の結果、各融雪日の融雪初期には、積雪下層の積雪内部融雪水が、押し出し流によって流出し、その後に積雪表面から供給された当日の融雪水が流出すると考えられる。 福島・田島における調査によっても、積雪を通した物質収支を検討した結果、NO_3^-のみが消失することが明らかとなった。各積雪層中のイオン濃度は、融雪期前は保存性が良いが、融雪時には明瞭に低下する。 ネパール・ヒマラヤの氷河の消耗域の氷上融水系には、ユスリカ類の水性昆虫とソコミジンコ類の甲殻類を確認した。これらの食物となっているのは、氷上で増殖している藻類やバクテリア類であることが考えられる。藻類やバクテリア繁殖は、モンスーン期に盛んになり、氷河上を汚れ層が覆うような状況になる。この汚れ層は、氷河表面のアルベドを低下させ、ひいては氷河の融解を促進させる。 日本アルプスの蔵の助雪渓においても、融解期には雪渓表面に藻類やバクテリアが繁殖し、アルベドを低下させている。
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