歯質や歯科用金属に接着力を持つ各種市販レジンの接着機構を解明するための基礎データを得る目的で、ラマンおよび赤外分光法の先端技術を生かした実験を行い、以下の新しい知見を得た。 I.顕微ラマン分光法による歯質接着性レジン-象牙質界面の局所分析と樹脂含浸層の検出……4-META/MMA-TBBレジンと象牙質との界面に垂直方向に線分析を行った結果、界面から象牙質側6μmの深さまでレジンが浸透し硬化したことがわかり、SEM観察から予想された樹脂含浸層の形成が初めて分子レベルで証明された。また樹脂含浸層ではレジン成分のうち4-METが、4-5倍に濃縮されていることも判明した。 II.歯質接着性レジンと歯質の接着における化学的相互作用の寄与……4-META/MMA-TBBレジン中に機能性モノマーとして含有される4-MET分子と歯質の主成分であるハイドロキシアパタイトを混合した試料、およびこのレジンをエナメル質、象牙質に塗布した試料のラマンスペクトル変化を解析した。界面で4-METとハイドロキシアパタイトのCaとの間に塩が生成していることが分かり、化学的相互作用の寄与が証明された。 III.歯科用金属接着プライマーの貴金属表面における吸着構造……金属接着性プライマーとして現用されている。M10PとM10PSを真空蒸着で作成した銀と金の基板に自己組織膜法およびスピンコート法で吸着させ、赤外反射吸収スペクトルを測定した。いずれの場合もリン酸基で貴金属表面に吸着し、特に銀に対しては、解離型で吸着することが明らかとなった。
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