研究概要 |
カイコガBombyx mori精子の成熟,すなわち,無核精子の運動性獲得と有核精子束の解離は、精包で行われる。これら無核精子活性因子,及び有核精子束解離因子は,いずれも,雄生殖輸管中の前立腺から分泌される,セリンプロテアーゼ型エンドペプチダーゼ,イニシヤトリンであることを確認した。精子成熟に必須の,この重要な夛機能酵素を,カイコガ雌交尾嚢内に作らせた精包を出発材料とし,BAEEase(Nd-benzoyl-L-arginine ethyl esterエステラーゼ)をその指標として,精製を試みた。精包は,数を集めるのに手数と時間を要し,かつ,前立腺以外の雄生殖輸管各腺からの分泌物が混在しているので,前立腺を出発材料とするよりも分離精製の因難が予想された。しかし,一方では,生殖輸管分泌物に活性剤と阻害剤を含むため,複雑な活性発現機構を有し,極めて不安定な活性の表出を示すこの酵素が,精包では,一応安定した,充分活性化された形で存在するという長所がある。まず,精包ホモジェネートの上清を30-80%の硫安処理で得られた分画を,HPLCを用い,Tsk phenyL-5PW,Asahipack ES-502C,さらに再度ES-502Cカラムを通すことによって,I型とII型の2種の,いずれもイニシヤトリンと考えられる,200倍精製された標本を得た。分子量は,SDS-PAGEでは,それぞれ29KDaと26KDaであった。そのシーケンスをN末の20のアミノ酸について解析し,GENETYXで,シーケンスの相同性を検索したところ,8種のエンドペプチダーゼと類似することが分った。これらは,いずれも哺乳類の組織中に存在するものである。最も高い相同性は,豚のglandular kallikreinであった。I型イニシヤトリンについて,カイコガ無核精子の誘導能を調べたところ,高い誘導活性が見出され,精製された“BAEEase"がイニシヤトリンであることが確認された。I型とII型のイニシヤトリンの関係は不明であるが,2つのisoformと考えられる。
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