1992年には本邦初の日本人搭乗科学者による宇宙実験(第一次材料実験)が運用された。その中には、ライフサイエンス関連実験が13種類含まれている。とりわけ搭乗科学者自身を被験者として4種類のライフサイエンス関連実験が行なわるが、「宇宙空間における視覚安定性の研究」(代表研究者;古賀)が唯一の知覚・心理知覚実験として行なわれた。本研究では、無重量環境下における諸感覚の再統合過程の検討を目的としているが、これは重力がヒトに対してどのような作用を持つのかという問題を、ヒトの高次認知活動、知覚/感覚の恒常性と判断という観点から実験的研究をおこない、以下にのべる諸項目について検討を加えることを目的として地上1G環境下での実験的研究を行った。平成4年度では、視覚に上下方向の変換を施し、更に特殊な前庭刺激を付加して両者の協応過程の再統合プロセスを検討した。長期プリズム順応実験は分担者(吉村;金沢大学)が実施した。実験は比較的長期の(14日)プリズムアダプテーション実験をおこない、その順応過程におけるVOR改善率を測定した。14日間の総着用時間は、197時間41分であった。測定は、上下反転鏡着用前の正常視状況、着用2、6、9、12、15日目に行った。視野の安定性の検討には、点滅光の融合臨界値測定による評価の上下反転視状況への適用を試みた。頭部往復運動条件では、上下反転鏡着用により、閾値の大幅な上昇が見られた。本テストでは、12日目以降減少傾向が認められたが、2日目の半分程度にまで減少した。もちろん、本テストでの測定状況である、暗室内での注視微小光点の点滅知覚閾値は、日常生活で被験者が体験している部屋全体の揺れと即座に同一視することはできないが、より生理的レベルに近づけた視点からの視野の動揺の評価と位置づけられよう。
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