高温超伝導体のキャリアーのタイプを決めているのは、結晶構造においてCu原子をとり囲む頂点酸素の有無であると経験的に考えられてきた。現在までにP型、N型両タイプにドーピングできるCu酸化物はみつかっていない。しかし、様々なスペクトロスコピーを用いて検討した結果、キャリアータイプを決めているのはCuO^2面内のCuとOとのマーデルングポテンシャルの差であって、頂点酸素の有無は間接的な要因であることがわかってきた. そこで注目したのは、典型的なP型高温超伝導体YBa_2Cu_3O_7(Y123)のYをPrで全置換したPrBa_2Cu_3O_7(Pr123)である.Y123の布土類置換体のうちPr123だけが超伝導性を示さないことはよく知られている.その原因がPr123ではマーデルングポテンシャルの差が小さく、P型ドーピングしにくいというところにあることが本研究で解明された.Pr123の状況はN型ドーピングに有利である.そこで、Prの一部をCeに、Baの一部をLaに、またOの一部をFに置換するなど一連のN型ドーピングを試みた.現在のところ常圧下での元素置換は難かしく、高圧下での合成処理を計画している. 近年、Pr123とY123との積層超格子が多くの研究機関で作製されており、Pr123を絶縁体層とする良質なSIS接合がつくられ始めている.もし、Pr123がN型の超伝導体になることが実証されれば、この種合は自動的に超伝導体PN接合となる.その時、初めて超伝導体PN接合で何が起こるか、高温超伝導独自のエレクトロニクスへの道が拓かれるかどうかが試されるであろう.同時に、これは超寺導状態において、P型N型クーパー対に意味があるかどうかという基本的な問いに解答を与えるものであると期待される.
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