研究概要 |
構造が簡単な上に小型軽量で、更に、消費電力の割に高出力が期待できる新型の負イオン源を開発する為に、一昨年来の研究を更に推進した。即ち、手許の質量分析計及び、試作した負イオン源を更に改良して,色々な実験条件の下で,負イオンの生成量及びイオン収率(イオン放射電流対衝撃電流の比)を調べた。その結果,(1)衝撃電子電流や電子電圧に対する負イオン放射量の依存性は、同一負イオン種々についても,用いる粉末試料の種類によって異なること、更に、負イオンの種類が変われば,大きな相違を示すこと,(2)そのような相違は,試料分子や原子の熱化学的性質(例えば、電子親和力や解離エネルギーなど)と単純な相関関係は示さないこと、しかし,(3)NaHeLiHからH^-が生成される場合には、負イオン収率(Y^-)と衝撃電子エネルギー(E)との間に、Y^--A^-exp〔-B^-/E〕の実験式が成立し、同じくH^+についても類似の式が成立すること、などを見出した。一方、(4)自己加坦方式の改良型負イオン源で調べたところ、電子衝撃中にNaFを200K上昇させてもNa^-の生成量は約2.5倍にしか増加せず,LiHを600Kから5900Kに上昇した場合には30%もの減少が見られた。一方、AgClを融点(722K)近くまで上昇させると,Ag^-の量が7倍に増大した。(5)この昇温効果を、電子衝撃なしで行なったところ、CaH_2からH^-が容易に放射されることを見出し,その蒸発熱の実測値と、熱化学的なエネルギーサイクルより,CaH_2表面の仕事関数が求められることも示した.又,CaH_2からの全放射負電流は99%以上が熱電子であることも確認した。又(6)粉末試料については正イオン衝撃によっても,効果的な負イオン化が可能なことも示した。 以上の研究成果は、日本化学会や日本物理学会、第5回イオン源国際会議(於北京)などで口頭発表すると共に、国内外の学術誌上に英文で公表している。また、この3年間に及ぶ研究業績は、約120頁の別冊(研究成果報告書)に要約してある。
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