研究概要 |
本研究は年1回しか飼育できない天蚕の育種を目的に、第1期(春蚕期)に天蚕と柞蚕を、また、相反交雑種を同一の再発芽圃場で第2期(夏秋蚕期)に飼育する技術を進展させるため、両親と交雑種(F_1)の繭質と糸質の特性を中心に共同研究を行い、以下の結果を得た。 1.繭の実用形質として、a)繭重からみた雌雄別の出現頻度は、両親とF_1いずれの系統でも雄>雌であり、雄の分布は平均繭重を中心に左右対称で、その順序はY×P>P=P×Y>Yであった。これに対する雌の頻度分布には対称性がないばかりでなく、分布にバラツキがみられた。b)性比はY=2.0,P=1.7,Y×P=1.3およびP×Y=1.7と1:1とはならずに雄が雌より多かった。c)蛹体重と繭層重の間にはいずれにも相関が認められた。d)柞蚕幼虫におけるNPVの感染率は雄30%に対して、雌90%と後者が高く、このことが雌雄差を生ずる1因であると考えられた。 2.a)4系統の繭糸量、繭糸長いすれにも雌>雄の関係がみられ、両親より交雑種の方が両形質に優れていた。b)解舒率は、とくに柞蚕系統において顕著に低かった。c)繭層に付着する無機成分は、いずれの系統でもCaを主成分とするCaC_2O_4結晶で、系統間に構成成分による差異がみられた。d)繭糸の形状は、表面の繊維軸方向に平行する条線が走り、断面の形は、4系統ともに細長い3角形を呈し、交雑種のものは両親のものより細長い特長をもっていた。 3.交雑絹糸に含まれる主な金属イオンのうち、Mg、KおよビMnの含有量は柞蚕絹糸に類似し、NaとFeは天蚕絹糸に類似していた。これらの金属イオンは、相反交配による母体の天蚕あるいは柞蚕の代謝の影響が金属イオンによって若干異なるものと考えられた。一方、交雑種絹糸の酸性染料による染色性は、染着量からみると、柞蚕>交雑種>天蚕各絹糸の順となったが、概して大差なく染色し得ることが認められた。
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