研究概要 |
昨年度の研究においてdehydrosinefunginの生産条件を検討するために必要な本化合物の定量法を確立した。本方法はHPLCによるペアードイオンクロマトグラフィーであり,この方法を用いて種々の培養条件を検討し従来の生産性を10倍以上向上させ,培養液1lあたり20mg以上の生産が可能となった。今年度はこの生産性の安定化を図るとともに,このようにして確立した培養法によりミニジャーファーメンター培養を行い,化合物の精製を試みた。イオン交換クロマトグラフィー及びシリカゲルクロマトグラフィーを組み合わせることにより,培養液2.9lからdehydrosinefungin,sinefungin及びamidinosinefunginをそれぞれ22.6,3.4,4.1mg得た。さらに大量培養を行い,最終的に約200mgのdehydrosinefunginを得た。この化合物量により,これまで行えなかった三年生松への投与実験が可能となった。 昨年度,松樹体への接種法についても,標品として,酒石酸モランテルを用いて,予備的な検討を加え,信頼できる方法を確立した。この方法を用いてDehydrosinefunginの投与実験を試みた。松苗木1本当たりに対して本化合物を1mg,0.1mg,0.05mg,0.01mg投与し,各投与量について20本の三年生松を用いて試験を行った。三年生苗木にまず本化合物を接種し,一週間後に2万頭のマツノザイセンチュウを後接種したところ,0.1mg投与の試験区では1ヵ月以上萎凋状が見られず,防除効果が認められた。これは酒石酸モランテルの効果の10倍であり,本化合物が樹幹注入剤として有望であることが示された。今後さらに三年生苗木を用いる防除試験の再現性を確認するとともに,大径木を用いる防除試験を行う予定である。
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