研究概要 |
(1)劣化資料の選定・評価。劣化資料の補強に先立って、資料の劣化度を定量的に把握し,一定規準を作成し,それに準據して補強すべき資料を選定することになる。本年度の研究において,(i)常法の引張り強さと引張り破断仕事量,(ii)一且,折曲げた後に測定するポストフォルド引張り強さと同破断仕事量,(iii)低荷重MIT耐折強さ,(iv)試作超低荷重耐折強さによる劣化資料の劣化度測定法を比較検討した。結論としてポストフォルド引張り強さ試験と超低荷重耐折強さが,それぞれの劣化度範囲で有用であることが知られた。今後,各試験法による測定値間の換算系数を求める必要がある。 (2)セルロ-ス繊維による補強。市販上質紙,中質紙,新聞用紙に直径3mmの孔をランダムに多数開孔し,これを多層抄きシ-トマシンを用いて叩解N・BKP,同L・BKP繊維により閉塞し,補強した。たとえば開孔率10%(面積)の場合,この補強方法で引張り強さを1.5〜1.7倍に向上できた。 (3)セルロ-スシ-トによる補強。市販上質紙,中質紙,新聞用紙を両面にゼラチンを塗布し,2枚の瀘紙で挟み,接着し,これを引剥すことによって紙を2枚に剥離した。その間に薄葉和紙を挿入し,でん粉糊で接着し,その後,ゼラチンを温水で除去した。このように薄葉和紙で補強した試料は,元の試料および補強和紙のいずれをも上廻わる引張り強さが得られた。今後,劣化資料について検討を重ねる予定である。 (4)セルロ-スメンブレンの調製。バクテリアセルロ-スメンブレンの調製条件について検討を重ね,資料補強用の大型サイズのメンブレンを調製できる目途が得られた。
|