研究概要 |
本年度は胚性幹細胞の分離法について重点的に研究した。すなわち,体内受精に由来する129/SvJ系マウスの胚盤胞を妊娠3.5日に子宮から採取し,あらかじめマイトマイシンで処理して細胞分裂を停止させたマウス胎子由来のフィ-ダ-細胞上に移して培養した。培地としては,ダルベッコの最小必須培地にヌクレオシドおよび非必須アミノ酸を添加しさらにユ-メルカプトエタノ-ルを最終濃度が0.1mMになるように加えたものを用いた。ウシ胎児血清はフィ-ダ-細胞では10%,胚盤胞を加えた後は20%の濃度で用いた。このような条件下で13個の胚盤胞を培養した結果,10個の胚において培養4〜6日に内細胞塊の増殖が認められこの細胞塊をトリプシン処理により軽く分散させて新しいフィ-ダ-細胞上で培養を継続した結果,2個の胚から幹細胞様のコロニ-を分離することができた。これらの細胞はきわめて優れた増殖性を示し,均一な細胞集団を形成したので細胞株として樹立されたものと考え,A3-1およびA3-2株と命名した。 A3-1株の細胞を継代9代目で染色体分析した結果,約78%の細胞が正常な正二倍体(2n=40)の染色体数を示した。体外培養条件下での分化能を検討するために,これらの細胞をフィ-ダ-から離して浮遊培養に移したところ,細胞が凝集して内腔を有する胚様体を形成し,さらに培養を継続した結果,自律的に収縮をくり返す心筋様細胞をはじめ,内胚葉細胞,神経栫細胞,筋様細胞など各種の細胞に分化し得ることが知られた。さらに,未分化状態のA3-1細胞をC57BL/6NxBDF1の胚盤胞腔へ注入してキメラ胚を作製し,偽妊娠雌の子宮へ移植した結果,帝王切開で娩出させた3匹のうち1匹が雄のキメラ個体であり,この細胞が体内においても多分化能を有することが実証された。以上の結果から,胚性幹細胞の分離のための基本的条件はほゞ確立されたと考えられる。
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