研究概要 |
1.山羊卵巣の潅流培養によってグラーフ卵胞の破裂はほとんど起こらなかったが,グルコースを消費し乳酸を蓄積しており代謝が認められた。 2.ラット卵巣を超低温保存するための条件を検討した。ガラス化保存後の卵巣を移植すると,71%のラットで卵巣と卵胞の発育が認められ,12匹のうち6匹で正常な性周期が生じたが,産子はえられなかった。 3.ガラス化法で胚と卵(母)細胞を超低温保存するための条件を調べた。ガラス化液として30%フィコール,0.5Mシュクロース,40%エチレングリコールを含むリン酸緩衝液を用いたとき,生存率が高かった。 4.牛卵母細胞の体外受精に関する要因を検討した。顆粒層細胞と卵丘細胞が重要な役割を果たし、特に後者が重要であった。体外受精卵を培養して胚盤胞にまで発生させるには,アミノ酸,リン酸塩,ピルビン酸塩,乳酸塩が不可欠であることを明らかにした。 5.牛卵巣から採取した卵母細胞を体外培養,体外受精し,さらに培養して胚盤胞に発生させた後,-196℃でガラス化保存した。これらの胚を利植して産子をえることを試みた。体外受精由来の牛胚盤胞を前処理として前述のガラス化液に室温下で1〜10分間浸漬後、液体窒素に投入してガラス化保存した。雌牛10頭にこれらの胚を2個ずつ移植すると,8頭(80%)が妊娠し,5頭(25%)の産子をえた。対照の妊娠率は71%,産子率は21%であり,体外受精由来胚をガラス化法で保存しても、対照と同じ生存性のえられることが明らかになった。 これらの成績から,牛卵巣に含まれる多数の卵母細胞を体外受精してえた胚を,簡易なガラス化法で超低温保存し,雌牛に移植して産子をえる系が確立された。卵巣器官の潅流培養と超低温保存は,卵巣の形態学的特徴から未だ成功していない。今後の一層の研究が必要である。
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