本研究の目的は非NMDA型グルタミン酸受容体サブユニットであるGluR1、GluR2、GluR3のcDNAをグルタミン酸受容体チャネルをもたない哺乳動物培養細胞のグロモゾームに組みこみ、グルタミン酸受容体チャネルをもつ培養細胞株を樹立することであった。GluR1-GluR3cDNAは米国ソーク研究所のJim Boulter博士から提供された。まずGluR1またはGluR3cDNAおよびネオマイシン耐性遺伝子を組みこんだ発現ベクター(SRαGluR1NeoまたはSRαGluR3Neo)を作製し、ラットグリオーマ由来の培養株細胞であるC6細胞に導入した。導入後の細胞をネオマイシンを含む培地中で長期間培養し、ネオマイシン耐性を示す細胞のみを増殖させた。 これらのGluR1、GluR3遺伝子導入を受けたC6細胞で[^3H]AMPAに対する特異的結合を調べた所、いずれの場合も微量ではあるがAMPAに対する特異的結合が見られた。しかしこれらの細胞でwhole-cell patch-clamp法を用いてカイニン酸感受性電流の記録を試みた所、応答を示す細胞は皆無であった。さらにGluR1またはGluR3サブユニットからなるhomomeric receptorが高いCa^<2+>透過性を示すという知見に従って、遺伝子導入を受けたC6細胞の細胞内Ca^<2+>濃度がカイニン酸によって上昇するか否かをfura-2法によって検討した。しかし高濃度のカイニン酸投与によっても細胞内Ca^<2+>濃度の変動を示す細胞を見出すことはできなかった。また遺伝子導入を受ける細胞として、C6細胞の代りにNIH3T3細胞、PC12細胞、NG105細胞を用いること、発現プロモータとしてSRα系の代りにメタロサイオニンプロモーターを用いることを試みたが、いずれの場合にもチャネル機能を示すグルタミン酸受容体を発現する細胞を得ることはできなかった。したがって、これらの受容体チャネル遺伝子の機能発現実験は当面一過性の発現系を用いざるを得ないのが現状である。
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