研究概要 |
心筋症の発症因子として、家族性肥大型心筋症患者では遺伝子異常があると報告されている。また拡張型心筋症における心筋細胞内のCa^<++>の異常,beta-Recepterの異常なども指摘されている。しかし心筋細胞外マトリックスが心筋症の発症、進展にどのように関与するか検討した報告は少ない。 コラーゲン線維の心臓に対する生理的役割はつぎのようなものが考えられる。1)心筋細胞や血管を支持しささえる働き。2)心筋細胞や筋線維をつなぎ、心筋細胞の収縮により生じる力を伝える働き。また、3)コラーゲン線維による張力・弾力は心筋の拡張時や収縮時の心筋の強度に影響を与える。これは心臓の変形を避け、形状・厚さを維持し、心室瘤や心破裂を避ける働きがあると考えられる。一方、病態生理的にはコラーゲンの過度の造成は心筋収縮力の減少および心筋拡張障害を引き起こすと考えられる。 本研究では2系統の心筋症のモデルハムスター(BI053.58,BI014.6)を用いて心筋症の進行の過程に伴う心筋細胞外マトリックスの変化をその主要な成分であるコラーゲンに注目し心筋症の発症、進展に細胞外マトリックスがどのように関与するかを検討した。 心筋症モデルハムスター(BI014.6,BI053.58)の心筋細胞外マトリックスのコラーゲンを分析して以下の結果を得た。 1)心筋組織の線維化の進行に伴い週齢が進行するにつれBI014.6,BIO53.58ともにコラーゲンが有意に増加していた。また、酸可溶性コラーゲンがBIO14.6・BIO53.58とも減少していた。 2)BIO14.6の20週齢、BI053.58の11週齢でIII型コラーゲンの有意な増加を認めたがその後はIII型コラーゲンとI型コラーゲンの比率は変わらなかった。BI014.6の30週齢でV型コラーゲンのI型コラーゲンに対する割合は減少していた。 3)BIO53.58の還元姓架橋分析の結果、心筋組織が線維化するにつれ還元性架橋が減少する傾向にあった。 4)組織学的には心筋症の線維化の進行に伴い太いコラーゲン線維が増加していた。こうしたコラーゲンの生化学的(量・型・架橋)・形態学的変化が心筋組織を硬い組織へ変化させ、心臓の収縮能・拡散能を障害し心筋症の病態生理的な変化を起こす原因のひとつとなっていると考えられた。 今回の結果より、心筋症の進行においてはその初期においてはコラーゲンはIII型コラーゲンの多い幼弱な組織であるが、進行した時期においては硬組織に近い組織(I型コラーゲンが多く、可溶性が減少し、非還元性の成熟架橋が多い組織)へと変わることが考えられる。こうした強固な結合をした太いコラーゲン線維が心筋組織内に彌慢性に増えることは、心筋細胞が変性・壊死し失われることと共に心臓の収縮能・拡張能をいっそう障害していると考えられる。特に線維化の強い拡張型心筋症で早期に収縮・拡張障害を起こし心不全になりやすいとものと考えられる。
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